地球温暖化、超高齢社会の社会問題に際し、その打開策を社会に提供することを理念とする。人類はその誕生以来、その優れた二足歩行による運動能(移動能)、環境適応能(体温調節能)によって地球上に広く分布してきた。しかし、最近の食糧・医療事情の改善、さらにアメニティの充実は、これらの能力を劣化させる一方、アメニティ獲得のための資源エネルギーの増大は、資源の枯渇、地球温暖化を促進させるという悪循環に陥っている。そこで、人類が生来持っている遺伝形質を再活用してこの悪循環を断ち切るという立場から研究を行う。
熟年体育大学リサーチセンターと共同研究を行っている信州大学医学系研究科スポーツ医科講座の研究戦略としては実験室での研究成果を現場で実践し、その結果を実験室での研究計画に反映するという「Back & Forth」の方式をとる。実験室では、実験動物からヒトの個体レベルの研究を行い、その成果を社会的に実践する現場として平成9年に「熟年体育大学」事業を自治体・地元企業の協力で構築したフィールドを使用する。過去14年間の努力の結果、この事業は運動処方効果に関する5,000名規模の科学的証拠を蓄積した事業として国の内外から評価され、平成22年度「文科省科学技術白書」にも紹介された。さらに、この事業を健康機器・機能性食品の開発のための研究フィールドとしても利用することができ、具体的には科学技術振興機構(平成23-32年度)「信州メディカルシーズの育成」、文科省特別研究経費(平成23-25年度)「食と運動による医農連携型個別予防医学の創出」の研究プロジェクトで使用する。
我々は運動時の体温調節能の改善には血漿量の増加が必要条件であると考えている。そのメカニズムの解明と血漿量増加のための補助食品の開発を行う。
我々は一週間に60分以上のややきついと感じる運動(インターバル速歩)が、体力向上、生活習慣病指標の改善、うつ改善に効果があることを健常人で明らかにしてきた。そこで、この研究対象を病人にまで拡大しインターバル速歩の「治療」方法として可能性を検証する。
同じ運動処方を行っても効果がある人とない人がいる。これは個人のもつ体質(遺伝子)に起因する。この遺伝子を明らかにすることで、学術的にはヒトのもつ優れた環境適応能の遺伝子が明らかとなり「ヒトとは何か」という科学にとって本質的な命題に取り組むことになる。応用面ではテーラーメード型運動処方に繋がる。また、フィールドで「釣り上げた遺伝子」について遺伝子改変マウスを作成し、その機能を詳細に検討することも可能になる。